【認知症の方への理解、接し方】 

 認知症といっても症状は様々なタイプや特徴があります。その方が元々持ち合わせている性格や置かれている環境が大きく影響します。

 時折、理解し難い行動があり、ひと昔は「問題行動」など呼んでいました。しかし本人は問題を起こそうとして行動している訳ではありません。この呼び方こそが問題ではないかと意見が上がり、最近は「生活の周辺状況」と呼ぶようになりました。

 周辺症状とは「行動・心理症状」とも言われます。最近ではBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という略語も登場しています。

 認知症であっても言葉や行動に理由、根拠があります。一見、不可解に見えますが、そんなことはありません。言葉が足りなかったり、言葉で伝えられないと行動で示すことや、つじつまが合わない行動もあります。何かすると失敗したり、生活のミスはありますが、人の役に立ちたい、迷惑を掛けたくないと思っています。

 また、毎日が分からないことだらけになるので、不安でしかたない。出来なくなることで悔しい思いをしています。 

 認知症の特徴として、非現実的な話、バーチャルな話をすることがあります。
 介護する方は「なに有りもしないこと言っているんですか!」と現実世界へ引き戻すのではなく、バーチャルな世界でのお付き合いをすること。そう、良かったですね」程度で受け流すことも時には必要です。

 大事なことは・・・
    決して否定しないこと。
    話を最後まで聞くこと。

 否定されると、「ウソ」をついていると捉えてしまいます。

 また、話をさえぎることは、「聞くことが面倒臭い、何回も聞いたなど」、遠まわしに否定されたと思われがちです。否定的な対応は楽です。何も考えずに切り捨てれば良いのですから。しかし否定的な対応では良い結果は生まれません。それでは介護のプロとは言えません。

 逆にバーチャルな話でも聞いてもらえることで安心感に繋がります。敵ではない、むしろいい人、やがて信頼してもいい人へ変化します。

 話を聞くことでその方の気持ちに近づけます。その方のメッセージを掴むチャンスでもあります。

 その方の気持ちになって考える事探求することは、介護職の醍醐味のひとつでもあります。まずは耳を傾けてその方を知ることから介護は始まります。

【認知症の方の気持ち・・・】

 例:「昨日、兄さん(既に亡くなっている)と会ったよ」
 ⇒年齢が若いころに戻っている。
 お兄さんを他の方と勘違いしているかもしれません。

 例:「家に帰ります」
 ⇒家にいるのに、家に帰ると言う。これも若い年齢に戻っている。家は生まれた生家を差している ことがあります。日が沈む夕方に多く、夕暮れ症候群とも呼びます。また、その場所が居心地が悪かったりすると、逃避したい気持ちから言うことがあります。 

 例:「今日は何曜日だっけ?」の問いに「水曜日!さっきも聞いたでしょ、何回聞くの」 
 ⇒曜日を忘れている。聞いてもすぐに忘れてしまうので何回も聞きます。言い換えれば、脳の引き出しが開け放しの状態、締めないので記憶がスーと出ていってしまう為、何回も聞きます。

もしくは、「水曜日」と言葉は分かるが、曜日の規則性、水曜日が何なのか、言葉の意味が理解ができない場合もあります。

 例:「毎日、散歩に行っている。さっきも行って来た」
 ⇒してもいないことをしたと言う。できないこともできると言う。自分を認めてほしい表れです。自分を守っている言葉だと思われます。

 例:「財布を盗られた」
 ⇒しっかりしている自分が財布をなくす訳がない。なくしていないのならば、自分以外の者が盗ったに違いないと思い込む。これも自分を守っているひとつでしょう。物盗られ妄想、盗難妄想、猜(さい)疑心などと言います。
 ちなみに、私達の生活で「携帯や鍵など忘れた、なくした」とはよく聞きますが、盗られたとはあまり聞かないですよね。毎回盗られたでは、かなり治安が悪い生活環境ともいえますね。(笑) 


例:「嫁がね・・・。私に意地悪なことを言うの」
⇒内容を聞いても答えられない。ただ「意地悪された」としか答えられない方もいます。しかし嫁は嫌い。嫌な対象。という感情は残ります。
 

 例:寝る前に歯磨きをしましょうと声を掛けると、「月末にまとめてするから、今日はしない」   ⇒生活歴や、仕事歴が関係していることがあります。
  現役時代に経理関係の仕事をしており、歯磨きと仕事が混在しているのかも知れません。 


 例:ゴミを集める。ゴミ屋敷
 ⇒必要な物と不要な物の判断がつかない。
 物を捨てられない性格も影響している場合もあります。
 自分の物と、他人の物の認識が薄い。他人の物と分かっているが物欲が勝り、持ってきてしまう。

また、若い頃に貧しい暮らしをしていたので、これ以上失いたくない。財産を失いたくない気持ちが強く、なんでも集める場合があります。収集癖と呼びます。

精神的な疾患も混在している場合もあります。

 

 例:おむつの内に手を入れる。便塗れになっている。
 ⇒おむつの中に便をした。お尻周りに便が付き不快に感じる。

 人は目で見えないものは手などを使い、見て確認しようとする心理が働く。
   @   一度おむつ内に手を入れると、手に便がついていることが分かる。
   A   手が汚れている。手を綺麗にしたいのでシーツなどで拭く。
   B   けれど、排便後の不快感は解消されないので、再び手を入れる。
   C   また手に便が付くのでシーツなどベット周りの物で拭く。
   D   これを繰り返し、やがて便塗れになることが多い。 



  以上、少しでも皆様のお役に立てればと考え、自分の経験から書いてみました。
  これからも気づいたことをお知らせしていきたいと思います。

                              居宅介護支援事務所武蔵野 江口 徹




前のページに戻る